TRiO KT-2200 が到着
2015年11月3日、豊橋市の K さんから
TRiO KT-2200
の修理依頼品が到着しました。
FM 専用バリコン式高級チューナ
です。
KT-2200 の兄弟
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KT-2200 には、ほぼ同じ外観の兄弟機
KT-1100
,
L-03T
があります。
これらの違いを以下にまとめてみました。
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KT-1100 は TRiO/KENWOOD として最後のパルスカウント検波です。
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KT-2200 と L-03T はほぼ同じ構成で PLL 検波です。
[Σドライブ出力] 以外のスペックは全く同じです。
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発売時期 |
定価 |
ブランド |
カラー |
受信
バンド |
フロント
エンド |
IF |
検波方式 |
MPX |
Σドライブ
出力 |
LOCK
スイッチ |
銅メッキ
シャーシ |
KT-1100 |
1982年 |
73,800円 |
TRiO |
シルバー
ブラック |
FM/AM |
(同じ) |
普通の構成 |
パルス
カウント検波 |
Sample & Hold
PLL MPX |
× |
× |
× |
KT-2200 |
1983年 1月 |
99,800円 |
TRiO |
シルバー |
FM |
(同じ) |
ノンスペクトラム
IF システム |
PLL 検波 |
Sample & Hold
PLL MPX |
× |
○ |
× |
L-03T |
1983年 1月 |
120,000円 |
KENWOOD |
ブラック |
FM |
(同じ) |
ノンスペクトラム
IF システム |
PLL 検波 |
Sample & Hold
PLL MPX |
○ |
○ |
○ |
状況チェック
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外観
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製造シリアル番号は [30900036] でした。
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フロントパネルの2箇所に 10〜15mm 程度の薄い線キズがあります。
これ以外はあまり問題なく、並みの中古状態です。
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リアパネルは綺麗なほうです。
端子類の状態はほぼ良好です。
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天板や底板はまあまあ綺麗です。
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リアパネルのサイドにある目隠しプラスチックに日焼けがあります。
これは対処不能です。
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チューニングノブの飾り溝に汚れがありますが、クリーニングで回復すると思います。
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入手した状態のまま電源 ON してチェックしました
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全てのスイッチ、ボリューム操作は正常です。
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ダイヤルの動きはスムーズです。
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問題なく受信できます。
ステレオにもなります。
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[REC CAL] スイッチ ON で録音用テストトーンが正常に出ます。
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以下の不具合があります。
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ダイヤルスケール板が 1mm 程度下側にずり落ちています。
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S メータ、T メータ共、照明ランプが点灯しません。
メータ照明だけがフィラメントランプで、それ以外は LED です。
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周波数ズレがあり、76.0MHz → 76.16MHz、90MHz → 90.22MHz 程度で受信します。
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ゴンゴンと手で叩いて振動を与えると、ボソボソという雑音が入ったり、周波数が大きくズレたりします。
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77MHz などの低い周波数で同調ノブを回すと、ボソボソという雑音が入ります。
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[MUTE LEVEL] スライドボリュームを動かすと、ボソボソという雑音が入ります。
カバーを開けてみました
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L-03T
との比較
写真をクリックすると拡大写真を表示できます。
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メイン基板は L-03T と全く同じです。
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L-03T との違いは以下で、これ以外は全く同じです。
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L-03T には [Σドライブ・ドータ基板] がメイン基板左奥に刺さっています。
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KT-2200 には [Σドライブ・ドータ基板] がありません。
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フレームは KT-2200 では普通の鉄板ですが、L-03T では銅メッキ鉄板です。
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使用 IC のロット番号より、この KT-2200 は1982年製と判明しました。
電源ケーブルのマーキングも1982年でした。
修理
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ダイヤルスケール板が 1mm 程度下側にずり落ちている
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KT-1100 / KT-2200 / L-03T ではよくある不具合です。
ダイヤルスケール板を取り付けている両面テープが経年変化で伸びてしまうのです。
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フロントパネルを分解してから、ダイヤルスケール板を取り外し、古い両面テープを無水アルコールで完全に取り去り、新しい両面テープに交換して直りました。
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ドット状に見えていた指針が、修理完了でバー状になり見易くなりました。
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振動でボソボソ雑音が入ったり、周波数が大きくズレる
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原因はフロントエンド内の OSC トリマコンデンサの劣化です。
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交換すればスッキリ直りますが、これをやるのは大仕事です。
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糸掛け機構を外して、フロントエンド部を基板から分離して ・・・ 調整だけの請負にはリスクが高過ぎです。
完全故障に陥るかもしれません。
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トリマコンデンサ回転軸の接触不良ですから、
エレクトロニッククリーナ
を軸に噴射してからグルグル100回くらい回して良好になりました。
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たぶん、これで大丈夫と思いますが、再発してしまったらトリマコンデンサ交換が必要です。
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このフロントエンドのトリマコンデンサ劣化は実に多いです。
製造から30年以上経っているのでメーカは推定無罪ですけど ・・・
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低い周波数で同調ノブを回すと、ボソボソという雑音が入る
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原因はバリコン軸受けの接触不良です。
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真鍮の軸や金具にビッシリと緑青のサビが出ていました。
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こういうことより、バリコンにも寿命があるのです。
そして交換はまず不可能です。
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これが、(私が) PLL シンセサイザーチューナを推奨する理由です。
こちらなら、あってもバリキャップ交換ですから完全に直ります。
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バリコン軸のサビは回復可能な程度だったので、以下のように対策しました。
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バリコン軸のサビを爪楊枝で落としました。
ボロボロと耳垢のような大量の緑青サビが落ちました。
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接触回復の目的で
エレクトロニッククリーナ
を噴射し何度もバリコン羽を動かしました。
エレクトロニッククリーナは揮発性なので、最後には完全に消滅するのが利点です。
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仕上げに
コンタクトグリース
塗布しました。
接触部の保護目的です。
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結構手間と時間がかかりましたが、以上で直りました。
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[MUTE LEVEL] スライドボリュームを動かすと、ボソボソという雑音が入る
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原因はスライドボリューム摺動子の接触不良です。
音量ボリュームでいうガリと同じ。
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スライドボリューム交換が正しいですが、同じものが手に入らないので、それは不可能です。
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エレクトロニッククリーナ
を摺動子に噴射し、何度もスライド動作させて直りました。
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+0.16〜+0.22MHz 程度周波数ズレがある
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再調整で直りました。
バンド中心の 83MHz で正しい周波数になるよう調整しました。
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バンド全域で±10kHz の誤差に収まりました。
使っているバリコンの精度では、この程度はやむをえません。
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S メータ、T メータ共、照明ランプが点灯しない
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S メータ用ランプと T メータ用ランプは直列接続されているので、一方が切れると両方点灯しなくなります。
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調査したところ、S メータ用ランプが切れていました。
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ランプを交換するにはメータを取り外して、メータハウジングを開く必要があり、リスクを伴うので未対策です。
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自分のマシンなら LED ランプに代替交換するのですが、借り物なので壊すと問題になります。
調整
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調整手順
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(L-03T と全く同じなので)
L-03T
の調整手順で再調整しました。
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やはり、経年変化による調整ズレが出ていました。
再調整により、感度や音質が向上しました。
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調整結果
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高級機に相応しい優秀な数値です。
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1kHz の高調波歪率は mono 0.007%, stereo 0.012% 程度と、かなり優秀でした。
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スペクトラムアナライザで観測して、1kHz の2次高調波がノイズに隠れる程度に調整できるので、IF 歪がかなり低いと思われます。
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やはり、
ノンスプクトラム IF システム
の威力は凄いです。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション |
WIDE |
60 |
62 |
dB |
ステレオセパレーション |
NARROW |
51 |
54 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-83 |
-89 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
WIDE |
0 |
+0.04 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
-7.01 |
-7.09 |
dB |
445.3 |
Hz |
使ってみました
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デザイン
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L-03T はブラックパネルですが、KT-2200 のシルバーパネルも、とても良いと思います。
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ダイヤル指針が赤い LED 表示で見易く、精密計器の雰囲気さえあります。
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TRiO デザインは高級機も一般機もデザインが変わらないのが残念です。
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高級機らしく脚にはインシュレータを使ってほしいのですが、ただの小さいプラスチック脚です。
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高級機なら、サイドウッドとか高級機らしく見せる飾りがあっても良いのに一切なしです。
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実際に受信できる周波数範囲
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KT-2200 はバリコン式のため、仕様の 76〜90MHz よりも少しだけ広い範囲を受信可能です。
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今回の個体では 75.1〜91.1MHz の範囲が受信可能でした。
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このことより、首都圏で2015年12月7日より本放送が始まった
ワイド FM
が受信できる場合があります。
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試したところ、90.5MHz の
TBS ラジオ
が埼玉・越谷でワイヤアンテナだけで感度良く受信できました。
ステレオで意外と良い音です。
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91.6MHz 文化放送、93.0MHz ニッポン放送は受信範囲外で無理でした。
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越谷から送信所のある
東京スカイツリー
までは見通し距離です。
直線で 20km はないと思います。
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リアパネル
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アンテナ入力は F 端子だけなので、雑音電波が混入しないです。
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L-03T と違って [Σドライブ出力端子] がありません。
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感度や音質
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バリコン式チューナも
このクラスになると流石に良い
です。
感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
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高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
性能は超一流です。
性能に比べて外観に高級感がないのが残念です。
ドキュメント